移民が伝える演歌2018年01月19日 22:17

 半年ぶりに両国のシアターX(カイ)で明治・大正の演歌師添田唖蝉坊が作った歌を聴いてきた。前回ゲストで出演したファドの唄い手松田美緒さんが、その後ブラジルへ渡航した際、現地の移民の歌として唖蝉坊の「ラッパ節」に遭遇するという新たな出会いがあり、土取さんによって急遽企画されたという。300弱ぐらいの小さなホールで客席も狭いが、独自のプロデュース公演を続けている希有な劇場で、他では聴けないこうした催しを安価で提供してくれることに頭が下がる思いだ。
 さて肝心の公演だが、唖蝉坊の演歌が海を渡った移民によって歌い継がれ、あるいは新しい歌詞を得て拡がったありさまを、歌詞を書いた個人に焦点を当てながら紹介していくものだった。もちろん、移民社会のなかで様々な方法で伝わっていったことだろうが、じっくり聴いていると、いわゆる望郷の念ではなく、人々の日々の生活の中から生まれた確かな手触りのようなものを感じることができる。そこには、単なる聴き手としてだけではなく、積極的に歌を取り込んでいった“力”があったように思う。なかには、ルンバやサンバ、そしてサルサのリズムを取り入れた歌さえある。
 言葉も十分に通じない社会の中で、たくましく生きた人々の姿を、私は、日本語を学ぶ外国人に重ねてみているのかもしれない。演歌がブラジルの文化に何らかの影響を与えたように、外国人の使う日本語が私たちに問いかけるものもきっとあるはずだ。それはきっと日本語そのものが豊かに開かれていくことにつながるのだろう。

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