尹東柱という物語2017年02月19日 15:46


 毎年、この時期になると池袋へ行くのが恒例になっている。韓国に関心を持ち始めた頃にある人の紹介で知った。「詩人尹東柱とともに」という集いが、その命日にあたる2月16日前後に立教大学で開かれる。キャンパスの中の諸聖徒礼拝堂で追悼や講演などが行われるのだが、この集いに初めて参加してからもう6回目になる。

 百年前、中国東北部の間島(カンド)で生まれた尹東柱(ユンドンジュ)は、日本に併合された時代に育ちながら、ハングルで詩を書き続け、日本への留学中に治安維持法により逮捕され、福岡刑務所で命を落とした。生誕百年にあたる今年、例年とは少し異なり、語りと朗読と音楽によって詩人の生涯を辿る物語が上演された。
 主催の「詩人尹東柱を記念する立教の会」が脚本を書き、ピアニストの崔善愛さんが音楽構成を行い、例年詩を朗読している三名の方々とチェロ奏者を加えた1時間を超える「物語」は、大変感動的なものだった。

 生まれ育った頃から、文学に目覚める中学時代、文化強要への抗議、そして帰郷。専門学校から日本への留学、改名と違和、そして孤独。時代に沿った足跡を語りで辿りながら、その時々に創られた詩が音楽と共に紹介されていく。初めて参加した人はもちろんのこと、例年通っている参加者にとっても、尹東柱との新たな出会いが待っていたような気がする。

 「物語」が失われているような時代の中で、再び詩人を蘇らせた「物語」の意義はとても深いものがある。そこには、“沈黙”に耐えながらひとりハングルで詩を書き続けた詩人の思いを受け止め、それを一人一人が育てることが今とても重要だという主催者のメッセージが込められていた。

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